有象無象

天井桟敷の狩人−アオダイショウ




屋久島では、1993年の9月に戦後最大級と言われた台風が直撃し、わが家でも軒のトタン屋根が吹き飛ばされた。部屋の中に滝のように雨が落ちてきて、一時はどうなることかと思ったが、幸い床板の片隅にネズミが開けたと思われる大きな穴があり、きれいに水が排水され大きな被害には至らなかった。
しかし台風は、後始末が大変である。結局、その部屋の天井と屋根を張り替えるはめになった。屋根に上がって、残っていたトタンをはがし天井裏を覗くと、何やら獣臭い臭いが鼻を付く。ネズミがいるのはわかっていたが、そこらじゅうに、ネズミの糞やイタチの糞、ヘビの抜け殻が散乱していた。どうりで夜毎にぎやかなわけである。
ある日Y−NACの事務室で仕事をしていると、天井裏から突然キキキキキッとネズミの悲鳴が聞こえた。しばらく静かになったあと、今度は側面の棚の上で悲鳴が響いた。今日は騒がしいなと思って、ふと棚に目をやると、なんと大きなアオダイショウがまさにネズミを飲み込んでいる最中であった。ネズミの上半身は既にアオダイショウの口の中だが、足と尾をばたばたさせなながら、キキキキキッという悲鳴は続いている。しかしアオダイショウのゴクッゴックッという顎の動きとともに、見る間にお尻まで飲み込まれ、尻尾の先だけとなり、やがて静寂が訪れた。このあとアオダイショウは、しばらく棚の上でうろうろした後、再び天井裏に戻って行った。
するとまもなくまたネズミの悲鳴だ。先の悲鳴と合わせて、2時間ほどの間に、3匹のネズミを捕まえたようである。音もなく忍び寄りネズミを捕まえる様は、ドタバタと運動会のように走り回って、ネズミを捕まえるイタチとは対象的だ。やはりアオダイショウこそが、天井桟敷の名人狩人だ。
[市川]
Ynac通信1号掲載