有象無象


液 状 化(噴礫の跡)


このところ鹿児島県内で地震が頻発しています。このおかげでゴールデンウイークの屋久島への観光客の入り込み者数も減ったとか?しかし屋久島は、巨大な花崗岩の岩盤の上に乗っているから大丈夫です。この間一度も揺れを感じませんでした。
ところがこの屋久島も過去には、阪神大震災以上の大地震に見舞われているようです。
時は、今から約6300年前。屋久島の北北西約40kmの海底に潜む鬼界カルデラが大爆発をおこしました。噴き上げた噴煙は上空数10kmに達し火山灰は、東北地方まで降り積もりました。この火山灰は特徴的なオレンジ色をしていることからアカホヤと呼ばれ、縄文時代の地層の年代を知る鍵となっています。
一方、鬼界カルデラ周辺では、一旦噴き上げた噴煙が崩れ落ち、高温の軽石や火山灰が火砕流となって海面を走り、鹿児島県本土南部からトカラ列島北部まで火砕流堆積物で埋め尽くされました。南九州の先進的な縄文文化は、この火砕流とともに消滅し、文化の中心は東北へと移行したとも言われています。この火砕流は幸屋火砕流と呼ばれており、屋久島でも宮之浦岳山頂部から海岸線にいたるまで、いたるところに堆積していることから、屋久島全土をこの火砕流が吹き抜けたと考えられています。
ところで楠川の農道の切り通しの地層の中に、こぶし大の礫が地層を貫ぬくように、立てに並んでいるのが観察できます。これは、地震による液状化の跡だそうです。液状化とは、地震の振動で、水分を多く含んだ地層が流動化して、噴き上げる現象で、川の堤防や埋め立て地などで、砂が噴き上げるのが見られていました。かつては、液状化で礫が噴き上げることはないと言われていたらしいのですが、あの阪神大震災の時に、礫が噴き上げたことから、この楠川の礫の配列も液状化と認められたようです。つまりこの液状化の跡は少なくとも阪神大震災クラスの地震が屋久島を襲ったということの証拠となっているわけです。この礫は下の礫層から噴き上げて来て、幸屋火砕流の層の下で止まっています。鬼界カルデラの大噴火の際に、まず阪神大震災クラスの大地震が屋久島を揺るがし、直後に火砕流が屋久島を襲ったと考えられるのです。
ところでこの液状化の跡を見ながら、「そういえば、我家は地震保険に入っていない」などと考えていると、案内して下さった鹿児島県立博物館の成尾先生は、「次に鬼界カルデラが大噴火すれば、鹿児島は全滅ですよ。」とおっしゃるので、なぜか妙に安心してしまいました。
ちなみに鬼界カルデラが大爆発をして火砕流が屋久島を襲っているのは、確実なところでは9.5万年前と6300年前の2回です。「あと数万年、孫子の代は大丈夫でしょう。」とは、成尾先生のお言葉です。

Ynac通信6,7合併号掲載